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かしこいスマホ

生まれた地方を離れて東京で暮らす男。年老いたひとり暮らしの母親がいるので、安否確認のために毎朝メッセージのやり取りしている。母親はまだまだしっかりしており、朝の情報番組で観たような話を楽しそうに送ってくる。

忙しいプロジェクトの合間に休暇を取った男は、朝のメッセージで「明日、久しぶりに実家に帰る」と伝えた。それでも母親から帰ってくるメッセージは韓流スターの来日についてだった。違和感から直接電話をしてみるが、誰も出なかった。

深夜の高速を車で走り、朝方に実家にたどり着いた男を待っていたのは、孤独死していた母親の亡骸だった。それはほとんど白骨化しており、ずいぶん前に死んでいたようだった。

しかし男は母親の死を実感できない。「本当に母親だろうか?なら誰がメッセージを送ってきていたのか?」頭に浮かんだのは、母親の死を隠蔽しようとした誰かが、男に偽装メッセージを送っていたのではないか?ということだった。
男は腹の底が重い塊に沈められるように感じながらも、いつものように朝のメッセージを送ってみた。送信から一瞬の間をおいて、部屋に着信音が鳴る。壁のコンセントにぶら下がった母親のスマホが、薄暗い部屋で光っていた。

男がおそるおそる近づくと、ホーム画面の通知欄は自分からのメッセージ着信を告げていた。薄暗い部屋に光る細かい字をなすすべなく見つめていると、あらたな通知がポップアップされる。

それはメッセージを受けても忙しくて気の利いた返信ができないときに、ニュースサイトから拾ったネタを編集して返す、最近女子高生に人気のアプリからの通知だった。
「……以上の内容で自動返信します(情報提供:エンタメゾーン)。あと3秒、2秒、1秒」カウントダウンが終わるのとほぼ同時に、男のスマホが鳴った。着信したメッセージは母親のスマホに表示されていたものと同じだった。

母親の死に気づかずアプリの自動応答とやりとりしていただけだと気がついた男は「いつからなんだ!」うずくまって2つのスマホの履歴を見比べた。しかし母親の死で動揺しているのだろうか?いつから不毛なやりとりをしていたのか、なかなか追いかけることができない。いらだちが怒りに変わり男はスマホを投げ出すと叫んだ

「字が小さすぎて読めなーい!」

白骨化した母親が起き上がってそれに応えた

「ハズキルーペ、だーいすき」

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